【導入:五感で捉える違和感】
「クラスプを交換してほしい」
そう言って持ち込まれたのは、どこかアンティークな佇まいのパールネックレス。
一見すると美しい光沢を湛えたパールのようでしたが、デザイナーとして向き合った瞬間、指先に不思議な違和感が伝わりました。光沢はあるのに、どこか脆く繊細。ワイヤーを通そうとしても、これまでの真珠とは違う手応えがあったのです。それは、単なる修理の依頼ではなく、このジュエリーが持つ「背景」を探る始まりでした。

【本編:素材の正体と、秘められた旅路】
製作の過程で、私はこの素材の正体を見極めていきました。
それは、貝殻を削り出した核に真珠液を塗り重ねて作られる「貝パール」。手間暇のかかった当時の工芸品です。
そして、お客様に伺ったその背景には、70年前の香港がありました。
当時、お父様が妻であるお母様へのお土産として選ばれたものだったのです。お客様が生まれるずっと前の出来事。

その頃の香港、どんな感じだったのかな?想像もつきません。異国情緒、租界のような感じかしら?と思いを馳せてみたりして。
【デザイナーとしての対話と救い出し】
「本物の真珠ではないから」と、お母様は身に着けず長年宝石箱の隅で眠っていたというネックレス。
けれど、お客様が大人になって宝石箱で見つけて以来その優しい輝きに惹かれ、ずっと大切にされてきました。
大小のグラデーションのクラシックな佇まいもお気に入りだったそう。今はあまり見かけないですね。
「ジュエリー愛のあるkeikoさんなら、きっときちんと向き合ってくれると思った」
その言葉をいただいた時、この仕事の本質を改めて強く感じました。
市場の価値基準ではなく、お客様の心の中にある価値をどう守り、未来へ繋げるか。
私は絵を描き、製図を引き、その想いを形にする「モノづくりのプロ」として、この物語を編み直すことに集中しました。

【結び:時を繋ぐ喜び】
お直しを終えたネックレスは、鶴のハサミを添えたトレイの上で、新しい命を吹き込まれたかのように輝いて見えました。
私の仕事は、単に形を直すことではありません。
誰にも使われず眠っていた想い出を、現代の装いに馴染む「今の美しさ」へと昇華させること。
70年の時を経て、お父様の贈り物がまたお客様の胸元で輝き始める。
その創造のプロセスに関われたことを、心から光栄に思います。



